【なぜ2022年10月に?】いまさら聞けない雇用保険料率引き上げの3つのポイント

失業、求職、育児など、仕事がなくなった時・働けなくなったときに給付を受けられるという雇用保険制度は、労働者であれば誰しもが加入している制度です。

基本は毎年4月にその年度の保険料率が決定しますが、令和4年度は10月にも保険料率が引き上げられることが決定しています。保険料率引き上げにより、労働者はもちろん、使用者にも大きな影響が出ることが予想されます。

本稿では、2022年10月の雇用保険料率引き上げがどう変わるのかに加えて、「そもそも雇用保険とは何か」「なぜ雇用保険料率が引き上げられるのか」「引き上げによる影響は何か」これら3つのポイントを中心に、令和4年10月からの雇用保険料率の引き上げについて解説していきます。今、雇用保険に何が起きているのかを正しく理解し、料率引き上げにスムーズに対応できるようにしましょう。

1.2022年10月の雇用保険料率引き上げはどう変わる?

雇用保険料率引き上げ

「令和4年度雇用保険料率のご案内」厚生労働省

令和4年10月1日に雇用保険料率が引き上げられ、6か月間適用されます。

今回の引き上げでは、労働者負担、事業主負担ともに料率が0.2%引き上げられます。つまり、私たち労働者も料率引き上げの直接的な影響を受けることになります。

例えば月収30万円の会社員の場合月々の雇用保険料は900円⇒1500円に増えます。小さな変化にも思えますが、何事も塵も積もれば……です。これを機に家計などを見直す必要があるかもしれませんね。

事業主負担、つまり使用者に関しては、2022年4月の時点で前年度から0.05%引き上げられていたため、合計で0.025%の引き上げになります。特に従業員数が多い企業ですと、大きな負担増加になることが考えられます。

2.雇用保険とは

2-1.雇用保険の目的

雇用保険の目的は、「労働者の生活及び雇用の安定と就職の促進」です。

失業された方や育児のために一時的に職場を離れる方など、働きたいのに一時的に仕事がない方に手当を給付したり、教育訓練を受けて働くための能力を身につけ、就職を目指す方に対して支援をしたりする制度です。

まとめると、雇用保険とは「仕事がなくなった時・働けなくなった時に備える保険制度」です。

2-2.雇用保険の加入者

雇用保険は労働者であれば基本的に誰でも加入しています。というより、加入する義務があります。

雇用保険への加入義務
1週間の所定労働時間が20時間以上、かつ31日以上の雇用見込みがある従業員。

業種や企業の大中小を問わず、また正社員であろうがパートやアルバイトであろうが、事業主は従業員を雇用保険へ加入させる義務があります。ただし学生アルバイトなど、いくつか例外はあります。

加入者は月々保険料を納め、そのお金で国は仕事がなくなった・働けなくなった方々を支援しています。自分が失業したり、育児休暇を取得したりする可能性が0という方はおられないと思いますので、その時に備えて私たちは毎月保険料を納めているのです。

2-3.受けられる給付

受けられる給付は様々あります。

雇用保険給付一覧

雇用保険制度の概要(ハローワークインターネットサービス)

失業等給付は、主に失業中に受けられる給付金で、求職者給付(求職中に受けられる給付金)、就職促進給付(再就職支援や安定雇用の目的で受けられる給付金)、教育訓練給付(仕事のための能力向上教育を受ける際に受けられる給付金)、雇用継続給付(高齢者や介護をする方などが受けられる給付金)に大別されています。

他にも育児休業給付や給付とは別に雇用保険二事業というものがあります。興味がありましたらこちらから厚生労働省の雇用保険制度のページをご確認ください。

2-4.雇用保険料率とは

雇用保険は、毎月いくらと固定されているわけではありません。

毎月の賃金に雇用保険料率をかけ合わせることで、毎月の雇用保険料は算出されています。

雇用保険料の計算式
雇用保険料 = (給与額または賞与額) × (雇用保険料率)

つまり、国は雇用保険料を変化させるのではなく、雇用保険料率を変化させることで、十分な雇用保険料を確保するように努めています。今回引き上げられたのも雇用保険料ではなく、雇用保険料率でしたね。

雇用保険料率が引き上げられると雇用保険料が上がるので、「雇用保険料が上がる」も「雇用保険料率が上がる」も結果的には同じ意味ですが、正しく理解しておくに越したことはないでしょう。

また、雇用保険料率は、雇用保険の現在の総支給額と予算などを参考に、毎年見直されます。保険料率に変更がある場合は、毎年4月1日から新しい料率が適用されます。年度初めには保険料率をチェックし、最新の保険料率を把握しておくようにしましょう。

3.なぜ雇用保険料率が引き上げられるのか

3-1.どういう時に雇用保険料率は上がる?

国は、雇用保険の収入に対して、雇用保険の給付額(支出)が増えてくると、もうすぐ蓄えが底をつきそうだということで雇用保険料率を上げ、十分な蓄えを確保するように動きます。足りなくなってきたから増やそうということですね。

雇用保険料率は毎年見直されているため、引き上げられるばかりではありません。逆に引き下げられることも結構あります。先述の通り通常であれば毎年4月にその年度の保険料率は適応されるため、要チェックです。

3-2.新型コロナウイルスの影響

2022年10月の雇用保険料率引き上げの主たる原因は新型コロナウイルスです。

雇用保険料は「労働者の生活及び雇用の安定と就職の促進」を目的とし、「仕事がなくなった時・働けなくなった時に備える保険制度」でした。新型コロナウイルスの影響で働けなくなった方はたくさんいます。そのため、雇用保険の給付も急激に増加しました。

  • 失業者が急増し、失業手当の給付が増えた
  • 休業する企業(事業主)も急増し、やむを得ない理由で休業を余儀なくされた事業主に給付される雇用調整助成金の給付が急増した。※雇用調整助成金は雇用保険二事業の積立金から支給

特に雇用調整助成金に関しては、2022年6月10日時点における雇用調整助成金等(緊急雇用安定助成金も含む)の支給決定件数が約659万件、支給決定額は約5.8兆円となっており、過去に最も活用されたリーマンショック時の実績(2009年度6538億円、2010年度3249億円)を既に大幅に上回っている状況となっています。

このような背景があり、2022年度に関しては、4月と10月の2回に分けて雇用保険料率が引き上げられることが決定しました。

参考:令和4年度第3回雇用政策研究会説明資料

4.雇用保険料率が引き上げられることによる影響

4-1.労使ともに雇用保険用の負担が増える

雇用保険料率が労働者、使用者ともに引き上げられたことで、月々の保険料の支払額は増えることになります。

労働者の負担も決して小さくはありませんが、大人数の従業員を抱える企業では、特に負担は大きくなります。また、いったん2023年3月末までの引き上げとなっていますが、今後の変更でも料率の引き上げが続くとなれば、労使ともに長期的な負担増加になります。

4-2.雇用の在り方が変化する可能性がある

雇用保険の加入義務は「1週間の所定労働時間が20時間以上、かつ31日以上の雇用見込みがある従業員」に発生します。雇用保険料引き上げが長期間続くとなると企業にとっては大きな負担となりますので、週20時間未満で働く短時間労働者やフリーランスを多く雇い、正社員の数を減らすという対策をとる可能性も考えられます。

昨今話題の働き方改革では、「多様な働き方」を選択できる社会の実現を目指しており、短時間労働者やフリーランスも多様な働き方の中に含まれています。コロナ渦においてリモートワークをはじめとした新しい働き方に舵を切る企業が多くあったように、今回の雇用保険料率引き上げをひとつの機械と捉え、雇用の在り方を見直す企業が出てくる可能性は十二分にあります。

4-3.最低賃金がアップしても……となる

最低賃金は毎年のように増加しており、労働者の待遇は改善されています。

しかし、雇用保険料率が引き上げられることで、労働者の手元に渡る賃金は増えません。加えて現在は社会保険料率も引き上げられているため、労働者はますます最低賃金アップの実感がわかなくなっているという状況に陥っています。

5.まとめ

主に新型コロナウイルスの影響による失業手当と雇用調整助成金の給付の増加が原因で、雇用保険料率の引き上げが行われることになりました。短期的な引き上げであれば労働者、使用者への経済的負担は最小限で収まりますが、新型コロナウイルスは本稿執筆現在も収束・終息の目途が立っておらず、したがって、雇用保険料引き上げもいつまで、そしてどこまで引き上げられるか分からないという状況です。

その状況を受けて、労働者に関しては各人で家計などを見直すことで対策を立ててみるのをおすすめします。また、雇用保険料率の改定は毎年4月にありますので、意識的に情報をキャッチするようにしておきましょう。

使用者の立場からですと、雇用保険料率引き上げをひとつのきっかけとして、改めて雇用の在り方を見直し、思い切って働き方改革に踏み出す企業があってみても良いのではないでしょうか。

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