「給与計算ソフト」と「アウトソーシング」のメリット・デメリット比較と導入のポイント

バックオフィス業務の中でも負荷が大きいとされる給与計算業務。
業務の負担を軽減する手段として、給与計算をシステム化している企業も多いです。

システム化は大きく「給与計算ソフト導入」と「アウトソーシング」の二種類に分けられます。
本稿では自社で給与計算ソフトを導入する場合、他社にアウトソーシングする場合のメリットとデメリットについて解説します。
業務の自動化を検討し、効率化を図りましょう。

「給与計算ソフト」と「アウトソーシング」とは

給与計算ソフト
業務担当者の給与計算業務をサポートするソフト。パソコン1台ごとにソフトをインストールする「インストール型」。自社でサーバーを保有しその中にソフトのシステム一式を導入する「オンプレミス型」。ソフトをWebサービスとして提供する「クラウド型」の三種類に分けられます。

給与計算代行(アウトソーシング)
自社の給与計算業務を、給与計算業務を専門に取り扱っている他社に委託すること。

1.給与計算ソフトのメリット

1-1.給与計算担当者の負担を軽減できる

手作業で集計すると何日もかかっていた給与計算業務を大幅に短縮することができます。

給与計算業務の効率化が可能となり、業務担当者が本来の業務に集中できるようになるため、生産性の向上を目指せます。

給与計算業務担当者の負担が軽減され、本来の業務に集中できるようになるため、業務の進捗改善に繋げることができます。企業である以上、給与計算業務を無くすことは不可能です。しかし、法や税、保険など様々な専門知識が求められるにもかかわらず、給与計算専門の職員がいる企業はほとんどないのではないでしょうか。

給与計算業務と他の業務(本来の業務)を並行して行わなければならないとなると、給与計算業務は大きな負担となります。担当者の本来の業務に支障をきたし、残業で対応なんてことにもなってしまいがちです。

また、後に紹介するアウトソーシングと比べて、社内に給与計算のノウハウを蓄積できるというのも給与計算ソフトの強みです。

1-2.法改正に対応しやすい

税率や保険料に変更がある場合、自動もしくはシステムを更新するだけで変更に対応できます。

業種にもよりますが、給与計算に影響を与える法改正は年に数回あります。給与計算ソフトですと、法改正の対応は基本的にシステム側で行うため、システムの利用者である企業側に大きな負担は発生しません。つまり、法改正に伴う面倒な変更作業をする必要がほとんどないということになります。

特にクラウド型のシステムを導入している場合、利用企業側の対応作業は発生しない仕組みになっている場合が多いです。

1-3.引き継ぎ作業を軽減できる

属人化のリスクを大幅に軽減し、引継ぎ作業が楽になります。言い換えれば、初心者でも給与計算ができます。

給与計算業務には様々な能力や知識が求められます。たとえばエクセルのマクロに便利な計算式を記述しているとしても、その仕様を理解するのも一苦労です。それゆえに、なかなか給与計算業務担当者は替えがききませんし、異動もさせにくい業務となっています。

給与計算ソフトでは、ソフトの使い方を覚える必要はありますが、難しい計算式を覚えるわけではなく、大抵の場合簡単な操作で扱えるものが多いです。また、使い方もマニュアルがあることから、引き継ぎの負担が大幅に軽減されます。作業が標準化されることで、異動にともなう給与計算業務の質の低下を防ぐことができます。

1-4.手作業で発生しがちなミスを減らせる

手作業の計算で発生しがちなミスを給与システムを導入することで減らすこともできます。

給与計算ソフトでは、給与の計算に必要な保険料率や賞与などの設定をあらかじめ登録しておくことができ、登録された数値を使って自動計算します。登録時にミスがないかは要確認ですが、一度数値を登録してしまえば意図的に変更しない限り数値の変更は行われないため、手計算に比べて書き間違え等のケアレスミスを軽減することができます。

2.給与計算ソフトのデメリット

2-1.管理・運用の社内人員が必要になる

業務を大幅に効率化することは可能ですが、給与計算業務に社内のリソースを使うことに変わりはありません。

特に、オンプレミス型の給与計算システムを導入する際には、システムの管理・運用を行う担当者が必要となります。保守サポート範囲外のメンテナンスは自社で行わなくてはいけません。

クラウド型のシステムを導入する際は、システムの管理・運用は不要な場合が多いです。

どちらの型を導入するとしても、業務担当者の教育・育成は少なからず行う必要はあります。システムを導入する際は、システムを使いこなせるようになるための時間を考慮に入れておきましょう。

2-2.費用がかかる

導入にあたって費用がかかります。

「月額〇〇円」のように定額タイプもあれば、「従業員一人当たり〇〇円」と従業員数によってシステム利用の費用が変化するものもあります。料金形態を確認して、自社にあったものを選ぶ必要があります。

また、導入の際の初期費用が必要なことも多いです。それに加えて、インストール型ソフトを導入した場合は、税率などの法改正に伴うソフトのバージョンアップが必要となるため、更新料がかかることがあります。

クラウド型は更新料がかからない場合が多いため、更新料が気になる場合はクラウド型のシステムから検討してみても良いかもしれません。

2-3.繁忙期に処理が重くなる場合がある

大企業などの、特に従業員数が多い企業では、多くの従業員がシステムを一斉に操作する月末などに、処理が重くなってしまうことがあります。

処理が重くなり操作性が落ちると業務に支障をきたしてしまいます。インストール型・オンプレミス型・クラウド型のいずれでも発生する可能性がありますが、中でもオンラインで作業を行うクラウド型で多い傾向があります。

給与計算ソフトに限った話ではありませんが、従業員数が多い企業がクラウド型を導入する場合は、同時接続しても重くならない人数や、操作感などをあらかじめ確認しておくのが良いでしょう。

2-4.データが消失する危険性がある

特にインストール型のソフトを導入する場合は、データの消失には十二分に注意しなければいけません。

インストール型のソフトは、PCのローカルディスクにデータを保存する仕組みになっている場合がほとんどです。このローカルディスクに保存されているデータは、バックアップなどでデータ消失に備えていなければ、PCの故障などで簡単に消失してしまします。消失して、さらに復元もできないとなると、給与計算業務に多大な影響を及ぼしてしまうでしょう。

データの消失が心配。きちんとバックアップを取れるか不安。そういうお悩みを抱えている場合は、クラウド型のシステムを検討してみるのがおすすめです。クラウド型では多くの場合自動でバックアップが保存される仕組みとなっており、データ消失のリスクが低く安心です。

3.給与計算アウトソーシングのメリット

3-1.トータルコストを削減できる

人件費を始めとしたコストを削減できる可能性があります。

給与計算業務にかかるコストは大きく分けると「人件費」と「システム維持・更新費」の二つです。

給与計算は必要な知識が多いため、業務担当者を教育・育成する費用が必要です。業務担当者が給与計算を残業で対応しているようなことがあれば、その分の費用もかかります。また、年に数回ある法改正のたびに自社で利用しているマクロを書き換えたり、システムを導入している場合は更新費用がかかることもあるでしょう。

アウトソーシングによってそれらの費用を削減できる可能性があります。

アウトソーシングすることで給与計算にかかるコストが明確に分かるため、それを受けて自社の給与計算業務を見直すことで、さらなるコスト削減につながります。自社で給与計算を行う際のトータルコストとアウトソーシングを比較して、よりコストが安い方を選択するのが良いでしょう。

3-2.メインの業務に集中できる

業務担当者の負担を軽減し、コア業務に集中できるようになります。

給与計算業務はいわゆる「ルーティン業務」ですが、専門的な知識が必要で作業量も多いです。そのわりに会社に利益を生むものではありません。例えば従業員が少ない企業ですと、そもそも給与計算専門の職員はおらず、経理や人事に給与計算業務を任せているケースが多く見受けられます。給与計算業務は繁忙期になると多くの時間を取られてしまい、業務担当者本来の業務(コア業務)に支障をきたしてしまいます。

コスト削減とつながる話ではありますが、アウトソーシングにかかる費用に対して、従来の業務担当者が給与計算業務をしなくなった(本来の業務に集中できるようになった)ことによって会社にもたらす利益を考える必要があります。

3-3.正確かつスピーディーに給与計算ができる

給与計算業務をアウトソーシングする先の会社は、その道のエキスパートであるため、正確かつ素早い対応が期待できます。

給与計算に関係する法改正などは年に数回あり、そのたびにシステムを変更しなければなりませんが、特に心配しなくとも委託先の方で対応してくれます。また、計算結果のチェックも正確に行ってくれるため安心です。

自社で給与計算を行う場合は、こういった法改正や計算結果のチェックに時間がとられてしまいますし、単純なミスが起こってしまう場合があります。法改正などの重大な見落としが起こらないアウトソーシングは安心といえるでしょう。

3-4.給与計算業務の属人化を防ぐことができる

その人がいなければ業務が進まないという状況を防ぐことができます。

給与計算業務は少数の社員に任されることが多い業務です。そして、様々な知識が必要であるため、全くやったことがない人がすぐにできる業務でもありません。そのような状況ですと、例えば業務担当者が病気などで休むことになってしまった際に給与計算業務が滞ってしまいますが、給与の支給を遅らせるということは会社としてあってはなりません。

給与計算業務をアウトソーシングすることで、属人化によるそのような心配事を無くすことが可能になります。

4.給与計算アウトソーシングのデメリット

4-1.自社にノウハウが蓄積されない

アウトソーシング先の企業に給与計算業務を委託するため、自社内で給与計算業務のノウハウ(社会保険、税制などの専門知識)を蓄えた従業員がいなくなります。

例えば従業員からの給与に対する軽い問い合わせがあった時に、その都度アウトソーシング会社に問い合わせる必要が出てくることが考えられます。また、アウトソーシング会社に何かあったような場合に、社内で対応ができません。そうなると、他のアウトソーシング会社を探す必要がでてきます。

自社に給与計算のノウハウを残すのか、そこを切り捨てて他の業務に集中し成果を出すのか。そのあたりは各企業の事情や戦略により異なりますが、どちらの方がメリットが大きいかは慎重に判断するようにしましょう。

4-2.社外でのデータ漏えいの恐れがある

給与計算業務をアウトソーシングする際に、自社の従業員の個人情報を他社に渡しているのだということを忘れないようにしましょう。

業務契約の際に自社の個人情報が正しく取り扱われるかどうかを慎重に確認する必要があります。アウトソーシング先の会社で実作業を行うのは、契約社員やアルバイトである可能性もありますし、アウトソーシング先の会社からさらに別の会社にアウトソーシングされている可能性も考えられます。

アウトソーシング先の思わぬところで個人情報の漏洩がある可能性もありますが、こればかりは自社の努力ではどうにもならない部分があります。しかし、どういった個人情報の管理体制なのかを事前にまたは時々確認し、情報漏洩を防ぐ努力をしましょう。

4-3.丸ごと代行するのは難しい

アウトソーシングといっても、自社の給与計算業務のすべてを代行してもらうのは困難です。

アウトソーシング会社の中には月々の給与計算のみ行いますというところもありますし、年末調整などには追加料金がかかるというところもあります。給与計算に関する業務を楽だからと全部任せてみると、最初に想定していたよりも費用がかかってしまったということも考えられます。しかし想定より費用が高いからといって途中から一部の業務だけを自社でやるとなれば、それはそれでややこしくなってしまいます。

また、そもそも全ての情報を外部に公開してよいのかを検討しなければいけません。

費用と情報セキュリティを十分考慮して、どこまでの業務範囲をアウトソーシングするのかを事前に決めるようにしましょう。

5.【結論】ソフトなのかアウトソーシングなのか

結論から言いますと、企業によって異なります。

企業によって、給与計算業務に関して抱えている問題は違いますので、一概にどちらが良いと言い切ることはできません。期待させた方には申し訳ございません。

ソフトを導入するにしても、アウトソーシングするにしても、もしくはどちらも採用しないにしても、よく検討することで、もともと自社で行っていた給与計算業務の改善につながることは間違いありませんので、ご検討の参考にしてください。

5-1.まずは業務を整理する

一度、自社の給与計算業務を整理してみましょう。どんな作業にどれだけ時間がかかているかを洗い出します。そして、時間がかかっている部分だけをアウトソーシングしてみようかなと検討していくのが良い流れです。

業務を整理していく中で、無駄や改善点に気づけることは多々ありますし、自社内の業務を改善すればシステムを導入しなくても大丈夫となれば費用面から見て一番良いでしょう。結果的にシステムを導入したりアウトソーシングをしたりするにしても、課題が明確であればよりよい選択が可能となりますし、予算設定もうまくいくでしょう。

5-2.人材面から考える

システムとアウトソーシングの大きな違いのひとつは、給与計算業務に社内リソースを割くかどうかです。

多くの中小企業では給与計算専門の従業員がおらず、一人の従業員が複数業務を掛け持ちするなかの一つが給与計算業務という企業は少なくないでしょう。月末などの繁忙期に給与計算業務の負担が大きく月末などに残業が常態化している場合には、給与計算業務に社内リソースを使わなくて済むアウトソーシングの検討をおすすめします。

5-3.費用面から考える

費用面は「月額料金」と「更新費・オプション費」の観点を検討しましょう。

月額料金に関しては、システムもアウトソーシングも、「月額〇〇円」のように定額タイプもあれば、「従業員一人当たり〇〇円」と従業員数によってシステム利用の費用が変化するものもあります。

従業員の数が多ければ定額タイプ、少ないほど変動タイプがお得になるケースが多いです。

維持費・更新費については、導入前に契約内容を確認し、後になって思わぬ費用がかからないようにしましょう。ソフトの場合は細かい変更などは保守範囲内で対応してくれる場合が多いですが、アウトソーシングの場合は年末調整などを依頼する際に費用がかかります。

アウトソーシングの導入を検討する際には、月額だけでなく、アウトソーシングを考えている業務内容すべてについての見積もりを確認するようにしましょう。その結果予算に合わなかった場合はシステムを導入するのが良いでしょう。

6.自社にあった選択をしましょう!

いかがでしたでしょうか。

給与計算業務は知識が問われ属人化のリスクがある一方で、会社の利益にはつながらない業務です。できることなら効率よく終わらせてしまいたい業務ですね。

本稿では業務効率化のために、「システム」を導入するか「アウトソーシング」するかをご紹介しましたが、大切なのはどちらを選んだかではなく、選ぶまでの過程にあります。

ただ楽そうだから、安いからという基準で選んでいては、後々になって困る場面がきっと出てきます。そうならないためにも、本稿が少しでもお役に立てたなら幸いです。

また、給与計算ソフトやアウトソーシングには様々な種類があり、特徴もまた様々です。どのベンダーを選ぶ時でも、資料請求やデモ、トライアルを利用したり、気になる点は積極的に問い合わせをしたりして、数社を比較検討してみることをおすすめします。

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