多くの企業がペーパーレス化で業務効率の向上に取り組む昨今。給与明細についても例外ではなく、電子化・Web化が進んでいます。既に導入された方も多いのではないでしょうか。また、導入したいと思われている方、導入しようか悩まれている方も多いと思います。
本稿では、給与明細電子化による給与計算業務担当者にとってのメリット、また、明細を受け取る従業員にとってのメリットをそれぞれ解説していきます。
給与明細電子化の導入にお役立てください。
目次
1.給与明細はなぜ必要?電子化していいの?
1-1.給与明細はなぜ必要?
そもそも私たちはなぜ毎月給与明細を受け取っているのでしょうか。給与に関連が深そうな二つの法律から探ってみましょう……
労働基準法
給与明細発行の義務についての記述なし
所得税法
給与明細書について、給与支払の際に支払を受ける者に交付しなければならないとの記述あり(所得税法施行規則100条1項)
所得税法に給与明細書の交付義務の記述がありました。このため、私たちは毎月給与明細書を受け取っているのですね。
1-2.給与明細を電子化してもいいの?したくない場合は?
電子化しても大丈夫です。法律上何の問題もありません。
すでに給与明細を電子化し、自分のスマホで毎月の給与を確認している、なんて企業も多く見受けられます。
ただし、ひとつだけルールがあります。
所得税法
給与明細の電子化に際して、書面又は電磁的方法による承諾を得なければならないとの記述あり(所得税法施行規則95条の2)
つまり、従業員からの承諾です。従業員から給与明細電子化の承諾が得られた場合は、給与明細を電子化することが可能になります。
給与明細の受け取り手、従業員の立場からだと、承諾すれば給与明細が紙ではなくなります。逆に言えば、今まで通り紙の給与明細の方が良いという人は承諾しなければ良いということになります。
従業員全員の承諾が得られなければ企業全体で給与明細の電子化ができないというわけではないので、完全に自己都合で決めて良いことです。あくまで自分が給与明細をどう受け取りたいかを考えて、承諾するかどうかを決めるようにしましょう。
2.給与明細電子化のメリット
2-1【管理者】コストを削減できる
用紙代・印刷代・郵送代などの費用を削減できます。
給与明細を電子化すれば、データの送受信のみのやり取りとなるため、これらの費用が丸ごとなくなります。
2-2【管理者】業務を効率化できる
紙の時と比べて、大幅な業務効率化が見込めます。
紙の給与明細の場合、印刷や郵送に多くの時間がかかりますし、手作業ですので郵送にミスなどが発生する可能性もあります。給与明細を電子化することで、印刷・郵送にかかっていた時間は削減できますし、手作業によるケアレスミスを軽減できる効果も期待できます。
2-3【従業員】給与明細の管理が楽になる
過去の給与明細がすぐに閲覧できるため、明細の管理が楽になります。
紙の給与明細だと、受け取り後に自分で保管場所を決めて自己管理する必要がありました。しかし人間ですので、紛失してしまうなんてことはよくあります。明細を電子化することで、過去の明細のデータはシステムの中で管理されます。そのため紛失の心配はありませんし、過去の明細を見たい時にどこにあるか探す必要がないため、ストレスなくパッと閲覧することができます。
2-4【従業員】時間・場所を問わずに明細を確認できる
いつでもどこでも給与明細を確認できます。
紙の給与明細ですと、実物をもっていない限りは内容を確認することができません。しかし、明細を電子化することで、例えば外出しているときでもスマホで明細を確認することができます。インターネットにつながる環境さえあればよいですし、電子化された明細をpdfファイルなどでダウンロードして保管しておけば、ネット環境の有無に関わらずいつでもどこでも明細の内容が確認できます。
3.給与明細電子化の注意点・ポイント
3-1.従業員からの承諾が必要
所得税法施行規則100条1項の記述により、給与明細を電子化する際には事前に従業員の承諾を得ることが義務付けられています。ですので、給与明細電子化を導入する前に必ず従業員の承諾を得るようにしてください。
承諾を得る際には、給与明細電子化のメリットや注意点を従業員に説明しておくことも大切です。企業にとってはコストの削減が見込めるよいものであっても、説明なしの導入では従業員を不安にさせてしまいます。従業員にも導入のメリットや注意点を説明することで、納得して承諾を得るようにするのが良いでしょう。
3-2.データ管理はきっちりと
過去の給与明細データがいつでも閲覧できる便利なシステムではありますが、多くの場合、一定期間保存したデータは自動で削除される仕組みとなっています。もしデータを長期間保存しておきたい場合は、導入システムを検討する段階で、システム会社としっかりと話をしておくのがおすすめです。
また、現システムから他システムに乗り換える際にデータの引継ぎができないこともあります。そこも含めて、事前に確認しておくのが良いでしょう。
3-3.セキュリティ対策は万全に
給与明細を電子化したことで、紙の時と比べてセキュリティに関するリスクは高まります。個人情報を取り扱う以上、セキュリティ対策は意識するようにしましょう。
例えば、従業員にメールで明細を送る場合に、ケアレスミスでの誤送信やセキュリティ対策不足いによるハッキングが考えられます。導入するシステムに、それらを防止するシステムが備わっているかを確認しておきましょう。
給与明細電子化ソフトの多くを占める「クラウド型」のシステムの場合、ログインIDとパスワードさえ知っていれば場所と時間を選ばずに作業ができるという魅力があります。しかしそれも裏を返せば、ログインIDとパスワードさえ知られてしまったら、簡単にハッキングできるということになります。
このように、情報漏洩のリスクは常に存在しています。給与明細電子化ソフトを導入する際には、ソフトを提供している企業の情報セキュリティ対策を確認しておくようにするのが良いでしょう。
3-4.給与計算システムとの相性確認
給与明細電子化システムを導入する場合には、現行の給与計算システムとデータと連携させる必要があります。
そもそも、給与明細を電子化するサービスを提供するソフトは、多くの場合それ以前の処理である給与計算のソフトとまとめて販売されています。ですので、給与計算も給与明細電子化も同じメーカーのソフトで行う場合は、システムの相性は特に気にしなくてよいです。
システム同士の相性が問題になるのは、
「今使っている給与計算ソフトは使いやすいから継続したいけど、新たに給与明細を電子化したい! 今使っている給与計算ソフトのメーカーとは別のメーカーの給与明細電子化ソフトを導入してみようかな……」
こんな時です。
給与計算ソフトと給与明細電子化ソフトのメーカーが異なる場合は、給与計算ソフトと給与明細電子化ソフトとの相性が悪く、データの取り込みなどに思いがけないず大量の時間がかかってしまう場合があります。もちろん、スムーズにいく場合もあります。
しかし、システム同士の相性で思いがけないエラーが出ることも考えられるため、こちらも導入前にしっかりと確認しておきましょう。
3-5.コストを比較して導入判断
費用対効果を考えてシステムを導入しましょう。
給与明細電子化システムの販売価格は「月額〇〇円」のように定額タイプもあれば、「従業員一人当たり〇〇円」と従業員数によって変化するものもあります。
また、初期費用がかかる場合がほとんどです。
しかし、ペーパーレス化によって紙代、印刷代などが不要になり、給与明細を作成、配布していた業務担当者の負担は軽減されます。
それらすべてを加味して、コスパを考えてみるのが良いでしょう。
4.給与明細電子化に踏み出しましょう!
いかがでしたでしょうか。
ネットワークを利用した業務の効率化が推進される時代において、今までは紙で受け取るのが当たり前だった給与明細にも、ペーパーレス化の波が来ました。個人情報を取り扱う給与明細のペーパーレス化については、セキュリティ面のデメリットはあれど、それを補って余りある業務効率化への貢献が期待できます。
まだ給与明細電子化を導入されていない場合は、メリットと導入に際しての注意点を把握して、ぜひ電子化に一歩を踏み出しましょう!